テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1223話】「草鞋と刀」 2021(令和3)年12月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1223話です。

 私の師匠である前住職は、生涯洋服は着ないで、法衣だけで過ごしたいと思っていました。しかし、現実には役場にも勤務しながらの二足草鞋でした。それは世間的なしがらみに縛られることでもありました。二足草鞋は、両立しないような2種を兼ねた生業を指します。

 一方、二刀流は同じような範疇の中で、ふたつのことができることを言うのでしょうか。今年世界のヒーローとなった大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手は、二刀流の称号を恣にしました。46本塁打100打点、9勝2敗156奪三振、更には26盗塁を達成し、グラウンドを縦横無尽に使って、規格外のプレーを見せつけました。そして、何かにつけ100年以上前の伝説の選手ベーブ・ルースと比較されます。まさに百年に一人の逸材でしょう。何せ大リーグのオールスター戦の規則を変更させたほどです。

 オールスター戦では打者と投手で選ばれました。規則で投手は3イニングしか投げられません。その間打順が回ってこなければ、交代するしかないのですが、大谷選手のために特別ルールが定められました。投手として降板した後も、指名打者として役割を果たせるようにしたのです。ヒットこそ出ませんでしたが、勝利投手にはなりました。史上初の「1番指名打者」「先発投手」として、オールスター戦出場を果たし、二刀流を不動のものにしました。

 少年野球ならともかく、プロ野球の世界で投打にわたって活躍するのは至難なことです。選手の負担が大きすぎます。それでもエンゼルスの打撃コーチは言います。「両方取り組むことは素晴らしい。一つのことに集中しすぎなくてすむ。複数のことに集中して、翔平が楽しんでいることがわかる」。

 確かに野球は打って投げて走っての世界です。大谷選手は心から野球そのものを楽しんでいるのでしょう。ただ凡人と違うところは、すべてのプレーにおいて、純粋にどこまでうまくなれるのかと高みを目指していることです。そのための練習を惜しまないところです。大リーグのア・リーグの最優秀選手に満票で選ばれましたが、受賞のお祝いのことを尋ねられても、「特にないです。また明日も練習があるので早めに寝ると思います」との答えでした。

 二足の草鞋を穿くくらいなら、一足で道を究めるべきというのは、仏道の世界です。しかし大谷選手の活躍は、二兎を追う者は一兎を得ずの価値観を覆す程です。仏道を説くのが難しくなりました。大リーグのある投手が言いました。「人間の形をした神話の伝説だ。彼がしていることは驚異的を超えている」。もはや大谷選手は神の域なのでしょうか。草鞋では一兎も追いきれませんが、大谷選手は刀に懸けても更なる活躍をすることでしょう。

 ここでお知らせいたします。11月のカンボジアエコー募金は、958回×3円で2,874円でした。ありがとうございました。

 それでは又、12月21日よりお耳にかかりましょう。

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