テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1214話】「失ったものを数えない」 2021(令和3)年9月11日~20日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1214話です。

 そのラストシーンは感動的で強く印象に残りました。40年前に見た「典子は、今」という映画です。両腕を失ったサリドマイド児として生まれた典子が、船から海に飛び込み、大海原をひとり泳ぐのです。両足だけで力強く泳ぐ姿を、上空のカメラが捉えています。そこに本人も歌っている映画のテーマソングが流れます。彼女の行く末に無限の可能性が広がっていくことを暗示するかのようなエンディングでした。

 当時19歳で熊本市役所に勤務する辻典子さん本人の主演です。彼女は言います。たとえば健常な赤ちゃんに言葉は教えますが、手を使うことは特別に教えたりしません。でもいつの間にか手を使うことを覚えます。わたくしは足が手、足が足なのです。人が手でやることを足でやる、それは生きるための本能だと思います。

 足だけで車の運転をする免許取得日本人第一号にもなりました。結婚もし2児の母親にもなりました。健常者から見れば当たり前にできることを、典子さんも当たり前にできるように、何事においても前向き取り組んできました。それにしても、すごいことだと思うのは差別の裏返しになるかもしれませんが、東京パラリンピックでも、映画と同じような感動がいくつもありました。

 女子100㍍背泳ぎで銀メダルを獲得した山田美幸さん。パラリンピック日本勢で史上最年少の14歳11カ月のメダリストです。生まれつき両腕がなく足にも障害があります。それでも陽気な性格で物怖じしない新潟県の中学3年生です。小学1年から水泳教室に通っていました。両腕がないので足だけが頼りです。元々脚力は強かったそうですが、パラリンピックを目指して、特訓を重ねました。それは重さ3キロもあるプールの四角い排水溝の蓋を、体にくくりつけたベルトで引きずって泳ぐというものです。そのレースを見て、40年前の典子さんに重なるものがありました。

 現代のパラリンピックの原点は、イギリスのグットマン博士が、負傷した兵士の治療回復にスポーツを活用したことです。障害を負った人も、車いすで卓球やバスケットボールに打ち込み、リハビリ効果を上げて、社会復帰につながっています。その博士の理念は「失ったものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ」ということです。

 全て揃っていてもやろうと思わなければ、1ミリも前に進みません。何か不足があったとしても、1ミリでも可能性があるならやってみようと思える人は、どんどん前に進んでいきます。そして揃っている人に限って、他と比べがちです。「だれか」とではなく「昨日の自分」と比べることが、成長の秘訣とある人が言いました。典子さんも美幸さんも、昨日より今日よくできた自分を素直に喜んで成長してきたのでしょう。

 ここでお知らせいたします。8月のカンボジアエコー募金は、803回×3円で2,409円でした。ありがとうございました。

 それでは又、9月21日よりお耳にかかりましょう。

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