テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1213話】「一茎菜の命」 2021(令和3)年9月1日~10日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1213話です。

 時恰も宮城県で緊急事態宣言が発令された8月27日、仕出し業者から封書が届きました。「コロナ禍で仕出しの形態も様変わりし、新しい生活様式に適応すべく様々な経営努力を行ってまいりました。しかし厳しい状況は続き苦渋の決断として、廃業することになりました」という挨拶状でした。

 長年、葬儀や法事の供養膳の仕出しでお世話になってきた業者でしたので、驚きました。確かに参列者が揃って供養膳を囲むことは、ほとんどなくなりました。今や折詰め供養膳を持ち帰ってもらい、各自で召し上がってくださいというまるで弁当感覚です。お膳をはさみながら故人を偲び、供養する貴重な時間が失われつつあります。

 現在コロナ禍が一因で経営破綻している企業は約2千社で、ここ10年間の東日本大震災における震災関連倒産に匹敵する数字とか。わずか1年半で全国の都市に広がっています。業種別では飲食業が最多です。休業・時短営業・酒類の提供停止となれば、当然のことでしょう。

 そんな中で開催された東京オリンピックで、とんでもないことが起きていました。開会式があった国立競技場で1万食発注したスタッフ用の弁当のうち、約4千食分が廃棄されました。需要予測を誤った結果だそうです。大会組織委員会の最終的な発表では、7月3日から1カ月間で、全42会場中20会場で調べたところ、約13万食が廃棄され、廃棄率は25%ということです。まさか仕出し業者の廃業に配慮して、水増し発注したわけではないでしょうが・・・。せっかく作っても食べてもらえないのでは、レースに出る前に失格したようなものです。廃業にも通じる無念さがあります。そして食べ物の命を軽んじた、あまりにもずさんな対応です。

 さて修行道場には、食事を司る典座(てんぞ)という重要な役職があります。修行僧の命を預かるといってもいいでしょう。曹洞宗を開かれた道元禅師は、典座がなすべき事柄を微に入り細に入り『典座教訓』に著わしました。その中に、「一茎菜(いっきょうさい)を拈じて丈六身(じょうろくしん)となし、丈六身を請して一茎菜と作せ」と記されています。一茎菜とは1本の野菜、丈六身は仏のからだをいいます。つまり、1本の野菜でも仏のからだとしてたいせつに扱い、仏のからだを1本の野菜に込めて大切に生かしなさいと食材に対する心がまえを説かれています。

 ひとつと数えた弁当にもにも多くの命が詰まっています。ひとつでも弁当(十)とはこれ如何に。ひとりでも選(千)手というが如し。選手の命と記録を支えてきた限りない食材の命に改めて思いを馳せています。コロナやオリンピックがあってもなくても、私たちは食べなければ生きていけません。近い将来に飲食業が復活することを願ってやみません。

 それでは又、9月11日よりお耳にかかりましょう。

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