テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第1196話】「お経がいい」 2021(令和3)年3月11日~20日
住職が語る法話を聴くことができます

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1196話です。
ほんとうならそこは緑の絨毯が広がって、のどかな田園地帯だったはずです。しかし当時は黒いヘドロに覆われ瓦礫が散乱していました。10年前の東日本大震災で遺体安置所になったところから見えた景色です。
町内の葬祭会館の広い駐車場に、何棟もの大きなプレハブが建てられ、そこに身元が判明した遺体が次々安置されました。連日そこに通ってお経のお勤めをしました。20体を超える棺がひとつの建物の中に整然と並べられている様は、想像を超えた異様な雰囲気でした。
しかし、現実は現実です。棺の上に記された名前を見て、この人も亡くなったのか、この人もか、と暗澹たる気分に陥りました。限られたスペースの簡便な焼香台の前でお経を挙げます。本来なら自宅でお勤めをすべきところでしょうが、たいていの方はその自宅も流されているのです。安置所の窓から見渡す先に自宅があったろうに、今は変わり果てた黒い大地です。もしかしたら、この人もあの辺りで発見されたのかもしれないと思うと、胸が詰まりました。
目の前には地獄のような景色。足元には何十もの棺。そこでお経を挙げても、何ほどの功徳があるだろうかと正直思いました。更に遺族の方は重い苦しみ悲しみを背負っているのです。お経を終えて遺族の方と向き合った時、その背中を少しでも軽くする言葉をかけなければと思いながらも、とうとう一言も発することができず、無言で挨拶をするだけでした。和尚としての非力を痛感する日々でした。
しかし最近こんな言葉に出会って少し救われました。フランス文学者奥本大三郎は言いました。「ただの慰めの言葉より、お経がいいときもある」。圧倒的な心の痛手を抱えた人に、何を言ってもほとんど届かないかもしれません。心の奥のことはその人自身にしか納得できなしでしょう。
お経は唱えている我々もすべてを理解しているわけではありません。ましてや聞いている人はちんぷんかんぷんです。しかしお経は得も言われぬ力を秘めているはずです。千年を超えて脈々と伝えられているのが何よりの証です。「お経は全身で唱えよ、聞く人は単に耳で聞くのではなく、全身の毛穴からもお経は入っていくのだから」と、老僧に教えられたことがあります。
確かに遺体安置所で慰めの言葉ひとつかけることはできませんでした。ただ、全身全霊でお経を挙げたつもりです。たとえ地獄のようなところで亡くなっても、その人に仏さまになっていただければ、仏さまが亡くなったところを、誰も地獄とは言わないはずだと信じたからです。ひたすらに成仏を願って唱えたお経でした。もしかしたら、そのお経で私が一番救われたのかもしれません。
ここでお知らせいたします。2月のカンボジアエコー募金は、170回×3円で510円でした。ありがとうございました。
それでは又、3月21日よりお耳にかかりましょう。
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