テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1161話】「その始まり」 2020(令和2)年3月21日~31日


永六輔さんの色紙

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1161話です。

 「ひとつの文字がその始まり・・・」という歌詞で始まる「ひとつの心」という歌で、コンサートの後半が始まりました。徳泉寺復興感謝祭5DAYSの第1日目のやなせななコンサートでのことです。それは東日本大震災から9年の3月11日に、津波で流出した徳泉寺本堂が再建された落慶法要の一環として行われました。

 あの大災難の中、本堂再建を決意させたのは、流されても奇跡的に発見された本尊さまです。みなさんの拠り所になろうとする一心で踏みと止まったものと信じて、「一心本尊」と名付けました。それに因んで、一心に一文字をはがきに写経してもらう「はがき一文字写経」を展開し、その納経料で再建を目指してきたのです。

 その始まりのひとつの文字を第一番目に寄せてくださったのは、永六輔さんでした。また写経のイメージソングとして私が作詞した「ひとつの心」に曲をつけ、全国で歌って写経を勧めてくださったのは、やなせななさんです。おふたりのお力添えのおかげで、全国47すべての都道府県の方から、写経が寄せられて、今日を迎えることができました。

 更に永さんは、「大津波 全部持ってけ 馬鹿野郎」という色紙も残してくださいました。私は落慶法要の挨拶で、その事を紹介しました。津波に対して腹の底から怒りを込めた言葉です。同時に、津波よ何もかも持って行ったつもりかもしれないが、どっこい希望を抱き夢を諦めない心までは流されないぞ。いつの日にか必ず復興してみせるとの決意が、その言葉の裏には込められていたはずです。

 本堂が流された跡地に立った時は、ゼロからならぬ、マイナスからの出発だという思いでした。本尊さまが発見された時、やっとゼロになったかという気持ちでした。その後は、全国から寄せられる「はがき一文字写経」の一文字、一文字がプラスとして数えられるようになりました。そして本堂が建って、大きなプラス1を記すことができました。まさに復興のその先にスタートを切る位置(一)に着いたところです。

 本堂の完成は、復興の過程としてのひとつの姿であり、それで終わりではありません。震災から9年は決して短い歳月ではありませんが、これから先は何十年もあるわけで、そこでどう生きるかかが、問われます。その事を模索する意味でも、感謝祭の5日間を通して、コンサートや写経会・坐禅会・アジアの子どもに絵本を贈るボランティア活動・法話ライブなどを試みてみました。

 「ひとつの心」の3番の歌詞はこうです。「湧き上がる雲を従えて 祭りの賑わい 光る汗 よみがえる故郷に 笑顔が踊る」まさにこの日を予言したというより、素直な願いの気持ちを綴りました。湧き上がる雲のように、全国から寄せられた「はがき一文字写経」に見守られて、賑わいのある故郷の寺として、大震災を語り継ぎ、笑顔の人々が心をひとつにして手を合わせられるよう精進してまいります。

 それでは又、4月1日よりお耳にかかりましょう。


落慶祝花

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