テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1077話】「一匹から一杯へ」 2017(平成29)年11月21日-30日

住職が語る法話を聴くことができます

1077.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1077話です。
 ものを数える時、魚類はみな一匹二匹かと言えば、そうではありません。カニやイカは一杯二杯です。しかし生きているときは、一匹二匹でいいそうです。杯はふくらんだ形の器を表し、カニの甲羅やイカの姿がそれらしいことから、商品として数える時の単位になったようです。
 さて、カニのおいしい季節になりました。先日東京のとある駅でおもしろいポスターを見ました。JR東日本の北陸新幹線をアピールするものです。「かにを食べに北陸へ。」という大きな見出し。脇には「踊りたくなる うまさです 北陸のかに。」と謳ってあります。そして海の上でカニが7匹、実際に踊っているような写真が一面に大きく載っています。
 その踊りというのが、まるでシンクロナイズドスイミングそのものなのです。足を横にして水面に体を浮かべた5匹は、ハサミの付いた手の片方をまっすぐ伸ばし、もう片方は鋭角に曲がっています。残りの2匹は、体半分だけを海面から出し、手を曲げています。7匹のカニチームの息の合った見事な水上演技です。
 「踊りたくなるうまさです」というキャッチコピーですが、ポスター上の踊りのうまいカニ、それは食べてもうまくて、食べた人は踊りたくなるほどのものだよと、両方のうまさと踊りを掛けたものでしょう。なかなか凝ったポスターとお見受けしました。
 同時に「今日カニを食べた。カニの一生を食べたんだんなぁ」というある人の言葉を思い浮かべました。私たちはカニをはじめ、様々な生き物の命をいただきます。そうしなければ生きていけないのです。でもいただくときに、どんな気持ちで箸をつけますか。「いただきます」と言って手を合わせるのは、最低限のことです。ほんとうは「あなたの命を私の命にさせていただきます」と言わなければならないのです。「あなた」とは勿論、食卓に並んだ命あった生き物たちのことです。
 カニは一匹と数えられる時を経て、一杯と数えられる時は、その命を私たちに捧げる時です。その一生は人間のためにと思って過ごした一生だったのどうかはわかりません。わかるのは旨いとかまずいとか言う、人間の勝手なカニに対する味覚だけです。そしてカニは少なくとも人間のためなったところはあります。
 私たちは何のために生きていますか。せめてこれからは、踊りたくなるうまさだけを求めず、私たちの血肉となってくれた数えきれない命を無にしないような日々を過ごすことでしょうか。例えば堅い甲羅のような心で我を通す自分勝手は慎み、人込みでは横歩きをして道を譲るというくらいの、いかに思いやりを持った生き方をするかということでしょう。
 ここでお知らせ致します。10月のカンボジア・エコー募金は、244回×3円で732円でした。ありがとうございました。
 それでは又、12月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1357話】
「花には水を」
2025(令和7)年9月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1357話です。 仏教思想家のひろさちやは「仏教は『幸福学』です。仏教にかぎらず、あらゆる宗教が幸福学なのです」と言っています。不幸になりたい人はいません。誰しもが幸せになりたいのです。 仏教を開かれたお釈迦さまの正式な呼び名は「大恩教主本師釈迦牟尼仏」です。大きな恩の教えの主である本物の師匠としての釈迦牟尼仏ということです。偉... [続きを読む]

【第1356話】
「平和の鐘」
2025(令和7)年8月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1356話です。 「弾(たま)となり人殺せしか我が寺の供出させられし釣り鐘は」広島県のある住職さんの歌です。先の戦争で、金属類回収令で多くの寺の鐘が供出させられました。徳本寺の旧釣り鐘堂の梁には鐘を釣っていたと思われる穴だけが開いていました。鐘はお国のためになったのでしょうか。 お寺の鐘は平和... [続きを読む]

【第1355話】
「母と地獄」
2025(令和7)年8月11日~20日

news image

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1355話です。 アメリカではハリケーンに「ローラ」とか「マリア」という女性名を付けることがあります。しかし、広島に原爆投下した爆撃機B29の愛称がエラノ・ゲイという女性名とは驚きです。 その由来は、爆撃機の機長ポール・ティベッツ大佐の母の名前だというのです。息子である機長からすれば、母は強さ... [続きを読む]