テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第953話】「貧父の差」 2014(平成26)年6月11日-20日

住職が語る法話を聴くことができます

953.jpg
 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第953話です。
 この世に生を享けて僅か5年。男の子はアパートの6畳間でひとり死んでいました。そして生きていたより長い年月の7年もの間、その死は人に知られることなく、遺体は白骨化していました。5月末厚木市で発覚した男児遺棄事件です。
 保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された36歳の父親は、「恋人ができ、養育を怠るようになった」と述べています。当初は週に5日ほどアパートに戻っていたものの、亡くなる2ヶ月前は週に1、2回しか戻らず、コンビニで買った弁当など1食分の食事を与えているに過ぎず、いずれ衰弱死するだろうという認識はあったといいます。遺体の周囲にはパンの食べかすなどのゴミが散乱し、回収されたゴミは2トントラック2台分もあり、電気やガス、水道は供給が止まっていました。親としての自覚がない分、子ども以上のわがままを具えた大人としか言えません。
 さて、先日91歳の父親を看取った娘さんが、葬儀の相談に訪れました。福島県の沿岸部でひとり暮らしをしていた父親が、東日本大震災以後に体調を崩したので、自分の住む神奈川県の病院で看病していたのでした。兄妹の中でも一番父親に可愛がられたように思うので、このくらいの面倒は当たり前ですと仰います。
 父親は大工さんでした。彼女が小学生のころ、父親の働く現場が通学途中にあり、学校帰りに必ずその現場に寄るように言われました。「家に持ち帰って弁当箱を洗っておくように」と、毎回父親の弁当を預けられたのです。弁当箱を開けてみると、半分しか食べていません。最初は身体の調子でも悪いのではないかと思いましたが、すぐに、これは私に食べさせるために、半分残してくれたのだと納得しました。
 彼女は言います。「私の家は貧しかったので、家に帰っても、何も食べ物がありません。子どもがお腹を空かしては可哀相だと思ったのでしょう。働いている父は、もっとお腹を空かしているはずなのに、私に『重い弁当箱』を持たせてくれたのです」
 彼女が小学生だったのは、おそらく昭和30年代と思われます。地方では特に「貧しい」という言葉を使う必要もないほど、みんながそういう状態でした。しかし大人らしい大人がいて、責任を自覚している親がいた時代とも言えます。貧しいという字は「貝」を「分ける」と書きます。「貝」とは「財貨」のことで、それを分散し尽して、乏しくなったという意味です。ここでは逆に「貧しい」を「心の財貨」を分ける心の豊かさと捉えたいものです。つまり貧しくても親が子をいたわるのは、心が豊かだからです。子を顧みない自分勝手な親の心こそ貧しいと言えます。厚木市の父親と昭和30年代の父親は、どちらもしいとはいえ、真意は比べようもなく、まさに「貧父の差」があります。
 ここでご報告致します。5月のカンボジア・エコー募金は、97回×3円で291円でした。ありがとうございました。
 それでは又、6月21日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1368話】
「後期高齢者」
2025(令和7)年12月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1368話です。 先月75歳の誕生日を迎えました。いただいたプレゼントは、後期高齢者医療資格確認書です。まだ現役の住職ですし、高齢者だからと甘えてはいられません。それでも年齢は正直です。 亘理郡内に曹洞宗寺院が13カ寺あります。私が徳本寺・徳泉寺という2カ寺の住職を勤めていますので、住職は12人です。その中でいつの間にか最年長に... [続きを読む]

【第1367話】
「安青錦」
2025(令和7)年12月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1367話です。 野球の本場アメリカで、アメリカ人以上の活躍をする日本人の大谷翔平。一方、国技である相撲では、ウクライナ出身の安青錦(あおにしき)が、九州場所で初優勝を果たし、大関に昇進しました。 安青錦の祖国ウクライナにロシアが侵攻し始めたのは、3年前の2022年のこと。出稼ぎをしていた母を... [続きを読む]

【第1366話】
「濁れる水」
2025(令和7)年12月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1366話です。 〈濁れる水の流れつつ澄む〉自由律の俳人山頭火の句です。山頭火は大正14年43歳の時、出家して曹洞宗の僧侶となりましたが、住職になることはありませんでした。44歳から行乞放浪の旅に出ます。「漂泊の俳人」とも称されました。 晩年は愛媛県松山市に「一草庵」という庵(いおり)を結びま... [続きを読む]