テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第934話】「臘月」 2013(平成25)年12月1日-10日

住職が語る法話を聴くことができます

934.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第934話です。
 12月の別名に「臘月(ろうげつ)」というのがあります。「臘」にはその年に生じた百物をまつって年を送る祭りの意があり、年の暮れも意味します。禅寺では12月1日から8日までは、坐禅三昧の修行期間にあたり、これを12月の8日間ということで、臘八接心(ろうはつせっしん)と言います。
 お釈迦さまは、29歳で出家なされ、山に籠って6年もの間、難行苦行を続けられます。しかし、それではお悟りを得られないことがわかり、山を下ります。尼連禅河(にれんぜんが)で沐浴され、スジャータという娘に乳粥の供養を受けて、体力を回復された後、菩提樹の下で坐禅三昧に入られました。8日目の朝、即ち12月8日の明け方、東の空に瞬く明けの明星をご覧になり、お悟りを開かれました。その因縁が臘八接心となっているのです。
 そのお悟りというのは、すべての現象はさまざまな原因や条件によって成り立っている「縁起の法」のことです。原因があっての結果であるから、その因果関係を悟れば苦悩から解き放たれるということに気づかれたのです。しかし、この境地を一般の人が簡単に理解できるわけはありません。お釈迦さまは、自分だけが悟りを得た悦びに浸ることなく、一人でも多くの人が、早く迷いから抜け出し、幸せになることを願って、伝道の旅に出ました。こうして80歳で亡くなるまでの45年間、各地で説法を続けられたのです。
 私たちは一人で生きていくことはできません。多くの人や物に支えられて生きています。その私も誰かの支えになっているかもしれません。世の中のすべてはお互い支え合っているとことに思いが至れば、お釈迦さまのお悟りに近づけるのではないでしょうか。宮沢賢治の「全世界の人が幸福にならなければ、個人の幸福はあり得ない」という想いは、お釈迦さまの心そのものです。
 さて、今年の臘八接心の中日12月4日は、東日本大震災発生から数えて、ちょうど千日目になります。千年に一度といわれる災害を経て、千日を生きてきました。千年という歳月からすれば、365分の1です。しかし、苦しみを抱えた人々にとっては、明日が見えず気が遠くなりそうな時間でした。日本全体からすれば、わずか365分の1という歳月で、千年に一度の記憶が遠くに行ってしまうのではないかという不安があります。臘八接心中に震災千日目を迎えたという因縁を想い、自分だけの悟り・幸福を願うのではなく、苦しみにあるすべての人の幸福をも祈りたいものです。
 被災地ではこの千日間、百物ならぬ物心両面の数えきれない支援をいただきました。被災地の人はその支援を心にまつって臘月を送ります。みなさまには、千年には千回の臘月があることを想い、いつも臘月の心を忘れないで下さい。スジャータの乳粥がお釈迦さまのお悟りへの支えとなったように、みなさまの支えにより、わたしたちも、いつの日か輝く星を仰ぐことができるよう精進します。
 それでは又、12月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1349話】
「背番号3の背中」
2025(令和7)年6月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1349話です。 好きな数字はと訊かれたら、迷いなく「3」と答えます。勿論長嶋茂雄さんの背番号だからです。小学生の頃その背中に憧れました。ユニフォームなど買ってはもらえないので、「3」という背番号を手作りした覚えがあります。 当時まだテレビはなく、たまにラジオで野球中継を聴くぐらいでした。そして伝説の天覧試合を聴いていた覚えがあ... [続きを読む]

【第1348話】
「いやしきおどけ」
2025(令和7)年6月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1348話です。 今からちょうど30年前、時の総務庁長官が、日韓関係を巡り「植民地時代、日本は良いこともした」と発言。韓国政府の反発を招き辞任に追い込まれました。その長官は江藤隆美(たかみ)氏です。その後、隆美氏亡き後、宮崎県の地盤を世襲したのが息子の江藤拓(たく)氏です。 先般、時の江藤拓農... [続きを読む]

【第1347話】
「ひきくらべる」
2025(令和7)年5月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1347話です。 八つ当たりの「八」は「四方八方」の意味で、誰かれなく時ところを選ばず、当たり散らすことです。自分自身の四苦八苦の苦しみを、どうにも解決できずに、自暴自棄になっているふるまいです。 5月1日大阪市で、下校中だった小学2年・3年の児童7人が、学校近くの道路で、突っ込んできた車にひ... [続きを読む]