テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第847話】「夏草や」 2011(平成23)年7月1日-10日

住職が語る法話を聴くことができます

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第847話です。
 平泉が国内で16件目の世界遺産に登録されました。平安時代末期以降に奥州藤原氏が建立した中尊寺や浄土庭園がある毛越寺(もうつうじ)などが、浄土の世界を現世に表現したものとして評価されました。11世紀東北地方では、戦乱が続き多くの命が失われました。初代清衡はその魂が、仏が住むという浄土に導かれるようにという願いを込めて、中尊寺金色堂を建てたといわれています。東日本大震災が発生したこのタイミングで、平泉が世界遺産に決まったことは、みちのくの復興の足がかりとなることを期待されてのこととも思えます。
 この度の大震災では、我が山元町でも死亡・行方不明者数は700名を超えています。その事実を目の当たりにし、平泉の世界遺産で復興という思いを汲むなら、多くの犠牲者の魂を浄土に導くために何かできないものかと願うものです。震災発生当時の惨状を見て、誰もが地獄のようだと思いました。しかし、そこを地獄にしては亡くなった人が浮かばれないではないかとも思いました。栄華を極めた藤原氏程の力がない者にとって、金色堂の建立は無理としても、鎮魂の心は千年の昔とも変わらないと信じています。
 震災から確実に時は流れました。ひと度は、瓦礫とヘドロに覆われた大地ながら、瓦礫の撤去も進み、大分緑の色が目につくようになりました。草が生えてきたのです。雑草などと言ったら叱られそうな、草の生命力のたくましさです。タンポポの花も見つけました。あの時は、田畑で作物を育てることができないばかりか、草一本生えないのではないかとさえ思ったことが嘘のようです。
 さて、お釈迦さまが何人かのお弟子さんと野の道を歩いておられた時のことです。花が咲いている丘に立たれたお釈迦さまは、足元を指さしておっしゃいました。「ここにお寺を建てるがよい」。するとお伴をしていた帝釈天(お釈迦さまに帰依した仏法の守護神)が、一本の草を手折りお釈迦さまが指さされたところに挿し、「お寺が建ちました」と申されました。お釈迦さまは満足気に微笑まれたというのです。
 何がしかのお堂を建てて供養をすることは貴いことではあります。しかし、お釈迦さまが言わんとするところは、ここという時ここという処に、たとえ草一本でもそれを標(しるべ)として、まごころ込めて供養するなら、意は通じるということではないでしょうか。迷いに迷って、いつかどこかにと思っているだけでは、柱一本建てることはできないでしょう。
 今この時に、あの時の地獄のような大地から生えた草の緑は、金色堂に勝るとも劣らぬ眩しさがあります。一本の草でも十分に大伽藍に匹敵する存在感です。そこに挫けない命を感じるからです。そして私たちが今この時この処で迷わずに成すべきことを成し遂げ生きていくことが、この度犠牲になられた方への何よりの供養でしょう。そこが浄土です。―夏草や津波に負けぬ涙跡―
それでは又、7月11日よりお耳にかかりましょう。

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