テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第827話】「大地に書く文字」 2010(平成22)年12月11日-20日

住職が語る法話を聴くことができます

20101211-3.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第827話です。
 「みちのく路を"緑の疾風"が、美しいグリーンの矢を描いて疾駆した」。1982年6月23日東北新幹線が大宮―盛岡間で初めて走った時の新聞記事の書き出しです。しかも「暫定開業」だったとかいてあります。あれから28年、とうとう東北新幹線が「全線開業」しました。12月4日東京―新青森間674.9キロを最短3時間20分で結ぶ新幹線が走りました。
 東北新幹線の「暫定開業」当時、みちのくは熱気を帯びていました。私も個人的な思い入れがありました。というのも、東北新幹線の開業にあたり、「東北新幹線の歌」の募集があり、私の作詞した歌詞が入選し、歌手の郷ひろみさんが歌ってレコードになったからです。「故郷は僕に微笑む」という歌です。募集を知った時、たまたま手元にあった新聞広告の裏に、思いつくまま書いた歌詞でした。思いつくままと言っても、坊さんになるために修行で故郷を離れ、友達ともしばらく会っていない状態の頃でしたので、友達のことを思いながら書いたような気がします。そんな思いが歌になり、世に出て、人の知るところとなり、しばらくぶりの友達から連絡が入ったりもしました。まさに故郷は僕に微笑んでくれたのです。
 その歌詞の一節に「黒い大地に希望という文字描き、青い大空に勇気という雲浮かべよう」と書きました。それまで自分の足元にある故郷がよく見えていませんでした。というより、故郷以外のところが良さそうに思えたのでしょう。しかし、これからはこの故郷で坊さんとして生きていくのが自分の道なのだという漠然としたものがあったのかもしれません。だからこの大空から勇気をもらい、この大地で希望を実現しようと歌いました。
 作家のマーク・トウェインの言葉に「20年後あなたは やったことより やらなかったことに失望する」というのがあります。28年前、希望という文字を書いていなければどうなっていたかわかりません。がむしゃらだったかもしれませんが、書いたおかげで失望はしていません。何事も諦めて最初からやらないというのは、更に何も生むことはないでしょう。青森まで伸びた新幹線も、財政難など様々な事情からミニ新幹線という選択肢があったにもかかわらず、フル規格にこだわった青森県の熱意が失望を消し去って、青森県に希望をもたらしました。
 さて、積年の思いが実って東北新幹線は全線開業に漕ぎつけました。私たちの人生はまだ完結していないのですから、全線開業とはいきません。暫定開業みたいなものです。全線開業まで20年あるでしょうか。何年あろうと、その時失望だけはしたくないものです。だからあなたが立っている大地に、今書くべき文字をしっかり記しましょう。人生は疾風の如く過ぎ去るものなのですから。今年もあとわずかです。
 ここでご報告致します。11月のカンボジア・エコー募金は、285回×3円で855円でした。ありがとうございました。
 それでは又、12月21日よりお耳にかかりましょう。

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