テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1348話】「いやしきおどけ」 2025(令和7)年6月1日~10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1348話です。

 今からちょうど30年前、時の総務庁長官が、日韓関係を巡り「植民地時代、日本は良いこともした」と発言。韓国政府の反発を招き辞任に追い込まれました。その長官は江藤隆美(たかみ)氏です。その後、隆美氏亡き後、宮崎県の地盤を世襲したのが息子の江藤拓(たく)氏です。

 先般、時の江藤拓農林水産大臣は、講演会で「コメは買ったことがない。支援者の方々がたくさんくださる。まさに売るほどある、私の食品庫には」という発言をしました。米価高騰のさなかに、米価を下げる効果的政策も示せずに、「買ったことがない、売るほどある」とは、庶民感情を逆なでして余りあります。しかも「わざとじゃないだろうけど、いろんな物も混じっている。石とかが入っている」とまで言い放っています。まるで米を作っている方に対する感謝の気持ちがないばかりか、手落ちを責めるかのようです。

 これほどの心無い言葉を発しながら、当初は撤回もせず、修正を主張していました。「講演はちょっとウケを狙って、強めに言った。消費者に対する配慮は足りなかった」。更には「宮崎ではたくさんいただくと『売るほどある』とよく言う。宮崎弁的な言い方でもあった」と、苦しい弁明を重ねました。もはや何を言ってもアウトがセーフに覆るわけはありません。結果、更迭ということになりました。

 しかし、その辞任の弁も「身を引くことが国民にとってもいいことだと判断した」と、まるで自分の身は守り、国民に恩を売っているかのようです。自分が悪かったと素直に認めたくないのでしょう。30年前のことも忘れ、米も買わず、人の痛みを感じる眼差しを持てないまま今日まで生きてきたとしか思えません。

 さて、ご存じ良寛さんは子どもとは無邪気に戯れ、苦しんでいる人の前では共に涙を流すような方でした。常に自分というものを無くし、子どもにも大人にも素直な心で接していたからこそ、親しまれたのです。しかし自分には厳しく、「言葉についての戒め」として「『戒語』90カ条」を書き残しています。手柄話など、自分がそんな風に言われたら嫌だなと思うことは言うべきではないという戒めが示されています。その中に「いやしきおどけ」というのがあります。「おどけ」とは「おどけた仕草で笑わせる」などと言う、ふざける意味があります。今で言えば「ウケを狙う」に当たります。

 この度の江藤大臣のウケ狙いは「いやしきおどけ」そのものです。一線を越えた失言は、人を笑わせるより、自分が笑われています。人々が求めていたのは、ウケよりもコメです。更に「戒語」には「悪しきと知りながら言い通す」戒めもあります。自分に厳しく素直に非を認める政治家こそ、人々にはウケるはずです。

 それでは又、6月11日よりお耳にかかりましょう。

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