テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【1327話】「祇園精舎の鐘」 2024(令和6)年11月1日~10日
住職が語る法話を聴くことができます

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1327話です。
平安時代の頃、琵琶法師は琵琶を弾きながらお経を読みました。その後、平家物語に曲をつけて語る流れができました。仏教との関りは古いのですが、残念ながらこれまで、琵琶を聴く機会がほとんどありませんでした。
10月27日に徳本寺で行われた「第18回テレホン法話ライブ」で、やっとその心に沁みる調べに接することができました。ゲストでお出でいただいた鶴田流琵琶奏者の榎本百香さんの弾き語りです。薩摩琵琶の本体は桑の木でできています。そして撥の大きさには驚きました。持つところはついていますが、30cmほどの大きな三角形で柘植の木です。三味線の撥よりはずっと大きく、5本の弦を捌きます。叩き撥と言って、弦と胴に同時に叩きつける弾き方や、スリ撥では弦をこすりつけるようにしてシュルシュルと風のような音を出すなど、思った以上に多彩な音色を奏でます。
そして、その語りはまた独特です。榎本さんは普段は可愛らしい女性の話し方です。ひとたび琵琶を弾き語るその声は、同じ人の声とは思えない重厚さで、聴く人の耳にずっしりと落ちてくる感じです。聴いた人のアンケートによれば、初めて琵琶を聴いた人ばかりですが、みなさんその深い響きと迫力が印象に残ったようでした。
さて、演目の一つが「祇園精舎」でした。平家物語の冒頭でお馴染みです。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)をあらわす。奢(おご)れる人も久しからず、ただ春の夜の夢の如し。猛(たけ)き者も遂には滅びぬ、ひとえに風の前の塵に同じ」
祇園精舎とはインドのコーサラ国にあったお寺で、お釈迦さまが説法を行った場所です。その教えの根幹にあるのは、すべてのものは常に変化し続けるという諸行無常です。また沙羅双樹はお釈迦さまが亡くなったところにあった木ですが、朝咲いて夕方には散るという儚さの象徴でもあります。この語りが琵琶の調べにのせて本堂内に響くと、それはそれは無常の極みそのものでした。水を打ったような静寂に包まれ、ひと時幽玄なる世界に浸ることができました。
そしてその日の夜、幽玄なる余韻は諸行無常の現実へと導かれました。衆議院選挙の開票があったからです。長年一強に胡坐をかき裏金議員を多数輩出した与党は、過半数割れという厳しい世間の審判を受けました。まさに「奢れる人も久しからず」です。数の力で自分たちの都合を優先し、国民の方に目を向けていなかった報いでしょうか。裏金より祇園精舎の鐘にこそ価値を見出し、盛者必衰の理を忘れてはならなかったのです。
それでは又、11月11日よりお耳にかかりましょう。
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