テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1268話】「嵩上げ復興」 2023(令和5)年3月11日~20日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1268話です。

 東日本大震災翌日の朝早く、避難所になっている坂元中学校に行きました。そこは少し高台になっていて、町の海側の方が見渡せる位置にあります。何と松林もなければ、民家も一軒も残らず、どす黒い大地と化していました。道路も判別できず、線路も流されるというありさまです。ただ、坂元駅の高架橋だけが、ぐにゃっとねじ曲がって、辛うじて残っていました。唯一あたりの目印となるものでした。

 わが山元町は東側約12キロがすべて海に面して、なだらかな海岸線が続きます。しかもほぼ平らな地形です。大津波がもろにそこを襲いました。津波最大波は12.2㍍で、町全体の40㌫が浸水したのです。人が住んでいる可住ベースでの浸水割合は60㌫にもなり、県内最大クラスです。犠牲者は町人口の4㌫にあたる637人に及びました。

 この12年間で、少なくとも浸水地域は見違えるようになりました。JR線は内陸へ移設して、高架レールを走るようになりました。そして元の線路のルートはそのまま嵩上げされて道路になりました。防潮堤の役目も担って、高いところは7㍍もあります。

 その嵩上げ道路を、先日亘理郡内の曹洞宗青年会僧侶と共に、慰霊行脚で歩きました。徳本寺の末寺で、本堂が流出した徳泉寺から震災慰霊塔である日本最代クラスの高さを誇る古代五輪塔の千年塔までの約5キロの区間です。確かに見晴らしはいいものでした。海が見え、集約された広大な農地が見渡せますが、家は一軒もありません。

 昔は電車の窓から民家も農地も松林も見えました。多くの人がそこかしこに住まいしていました。そこに住まいしていたがゆえに犠牲になった人がたくさんいます。現在は災害危険区域となり、住宅建築は許可されません。広い大地の整い過ぎた景色が、逆に辛すぎます。無念の思いで亡くなった人に、お経の声が届けとばかりひたすらに行脚しました。

 行脚を終えて気づいたら、草鞋の片方の藁がすり減って、穴が開いていました。まさに「破草鞋(はそうあい)」です。「草鞋(そうあい)」とは「わらじ」のことで、「破草鞋」とは「草鞋を破る」と書きます。草鞋をすり減らして、本物の教えを求めて諸国を行脚することを言います。果たしてこの度の「破草鞋」で、本物の復興に辿り着いたと言えるでしょうか。あれから12年、震災を知らない子どもが育っています。道路の嵩上げだけでなく、復興の嵩上げも必要な時期に来ています。震災前の故郷、震災当時のこと、そこからの復興の過程を、次世代に伝えること、それが嵩上げ復興です。未来の(わらし)の命を守るためにも、いま一度草鞋の紐を結び直しましょう。

 ここでお知らせいたします。2月のカンボジアエコー募金は、768回×3円で2,304円でした。ありがとうございました。

 それでは又、3月21日よりお耳にかかりましょう。



破れ草鞋

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