テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第1176話】「百日紅」 2020(令和2)年8月21日~31日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1176話です。
百日に紅と書いて「さるすべり」と読みます。境内にあるその花が、お盆の13日に咲きました。百日紅はお寺の木だから、一般には植えないというまことしやかな話を聞いたことがります。中国などに伝わる話によると、女性が恋人と百日後に会う約束をしたのに、百日目を目前にして死んでしまいました。その後、女性の墓に生えた木に紅い花が咲き、百日紅(ひゃくじつこう)と呼ばれるようになったとか。亡き女性の身代わりの花、或いはお墓に咲く花というイメージが、お寺と百日紅を結びつけたのかもしれません。
実際は夏の長い期間、紅い花を咲かせているから、百日・紅なのでしょう。百は長い期間の象徴的数字です。その木肌はつるつるして滑りやすそうなので、「さるすべり」とも呼ばれるわけです。私はそこからして、お寺にふわわしい木だと感じています。「猿も木から落ちる」のだから、何事も油断せずに励まなければならないということを、百日紅は教えてくれます。
また暑さに耐えて長期間紅い花を保ち続けるのは至難なことです。そのための忍耐・精進の姿が百日紅から伝わってきます。本山で修行していた時、春から夏にかけての百日間は「百日禁足」と言って、本山から一歩も外に出ることができない修行三昧の期間があります。やがて百日禁足が明けるのを待っていたかのように、境内に咲く百日紅を見て、自分たちの百日間の修行がいつか身について、紅い花を咲かせることができるだろうかと思ったものでした。
木から落ちた猿がいたとして、それが驚かれるのは、木登りにかけては猿は絶対的能力があると認められているからです。果たして私には、猿に負けないような能力があるでしょうか。本山を下りて何十年も経った今も、どんな花を咲かせることができたのか忸怩たるものがあります。そして、百つながりの禅語が思い浮かびます。
中国唐の時代の長沙景岑(ちょうしゃけいしん)の言葉に「百尺竿頭進一歩(ひゃくしゃくかんとうしんいっぽ)」というのがあります。「百尺の竿(さお)の先に登って、そこから更に一歩を踏み出せ」ということです。百尺とは約30メートル、10階建てマンションの高さです。秋田竿灯祭りの竿でさえ、12メートルですので、30メートルは想像を超えています。
百尺の竿を登るとは、精進に精進を重ねて頂点に達したということでしょうか。そこから更に一歩を踏み出せば、命を落とすこともあり、これまで積み重ねてきたものが水の泡になるかもしれません。しかし、それほどまで捨てきる覚悟がなければ、禅を極めることができないという厳しいお示しです。厳しい暑さの中にあって、百日紅のように花も咲かせられず、頂点にも至っていない者にとっては、踏み出す一歩もない事を悟り、更に励むだけです。そういえば「百」という漢字には、「はげむ」という読み方もあるんですね。
それでは又、9月1日よりお耳にかかりましょう。
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