テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1117話】「普段の油断」 2019(平成31)年1月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1117話です。

 あけましておめでとうございます。今年も良い年でありますように、お念じ申し上げます。

 とは言え、良いことばかりが続かないことは世の常。昨年暮れの12月22日、インドネシア中部ジャワ島とスマトラ島の間のスンダ海峡で、地震もないのに大規模な津波が起きました。何の予兆もなく津波に襲われては、逃げようもなく、400人を超える犠牲者が出るなど、大惨事となっています。海峡にある火山島アナククラカタウの噴火に伴って、海底で地滑りが起きたことが原因とみられています。

 インドネシアでも、年末年始は普段と違う賑わいがあることでしょう。それらは一瞬にして流され、平穏な光景が瓦礫と化してしまったのです。そして思い出すのは、15年前の同じスマトラ島でのやはり年末の出来事です。2004年12月26日、スマトラ島沖で大地震が発生しました。津波がインドネシア、タイ、インド、スリランカなどを襲い、12カ国に亘って、死者・行方不明者が22万人を超えたのです。その後、被災地では何年間もまともな新年を迎えることはできなかったわけです。

 おめでたいときに辛い話になって恐縮ですが、正月になると思い起こす一休さんの逸話と重なるものがあります。正月で賑わう京都の町中を、汚いない身なりの坊さんが歩いています。手に持った竹竿の先には、何と人間のしゃれこうべがぶら下がっているのです。誰もが正月早々縁起でもないと、気味悪がって遠ざかります。坊さんは平然と言います。「正月だからと浮かれていても、やがてはこのような姿になるのじゃ。油断することなかれ」。無常なる姿の究極を衝いた一休さんの真骨頂です。

 お正月だから災難がやってこないという保証はありません。人の死も避けられません。徳本寺では平成になってから、正月3ガ日間に亡くなった方は13人を数えます。今やいつでもどこでも災害が起こるし、いつでも死はやって来ると覚悟しなければなりません。しかし、こういう話は、何でもないときにいくら説いても、人は聞く耳を持たずです。晴れやかな正月をあえて選んで、その正反対の場面を突き付けて、人々に警鐘を鳴らした一休さんはさすがです。

 正月といって浮かれていられるのは、せいぜい3日くらいのものです。災害に遭った後や、不幸から立ち直るには、夥しい時間がかかります。常に油断なく備え覚悟しておくことが肝心です。その上で、どんな時にも、慌てずどっしりと構えられるようでありたいものです。辞書によれば「油断」は、気を許す、注意を怠るとあります。元々はゆったりという意味の古い表現である「寛(ゆた)に」が語源だという説もあります。備えがあれば、いざという時慌てないで済む本来の「油断」が活きてきます。余談になりますが、猪年の今年、猪の口と書く猪口(ちょこ)で一献傾けながら、普段油断について思い巡らしてみましょう。

 それでは又、1月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1337話】
「涅槃寂聴」
2025(令和7)年2月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1337話です。 「言っていることは聞こえていて、うなずくが、しゃべることはほとんどできない。目を開けるのも辛そうだった」。2021年11月9日に99歳で亡くなられた作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんの病床での様子。最期まで看取った秘書の瀬尾まなほさんが伝えたものです。 死の1カ月ほど前に、一時退院して新聞連載の随筆を書き上げたのが最後... [続きを読む]

【第1336話】
「直心の交わり」
2025(令和7)年2月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます 元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1336話です。 「一河(いちが)の流れ掬(く)むにさえ 深き恵(めぐみ)と知るものを 真心こもる熱き茶に 疲れを癒す有難さ」という御詠歌『報謝御和讃』が此君亭に流れました。茶室で聴く御詠歌は初めてです。御詠歌が茶室に染み入るのか、茶室が御詠歌を唱える人々を包み込むのか、得も言われぬ雰囲気を醸し出... [続きを読む]

【第1335話】
「昭和100年に想う」
2025(令和7)年1月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1335話です。 今年2025年は昭和の年号で言い換えると「昭和100年」になります。私は昭和25年生まれで、西暦では1950年です。区切りのいい数字の年に生まれました。私にはもうひとつ区切りのいい年があります。それは昭和50年です。この年に大本山總持寺に上山して、僧侶としての修行の第一歩を踏み... [続きを読む]