法話 〜3分間心のティータイム〜イメージ

【第1072話】 「9秒台」 2017(平成29)年10月1日-10日

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1072.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1072話です。

 過ぎたことを思い煩う弟子に、お釈迦さまは「過去や未来を案ずるより、今日この時の刹那を大事にしなさい」と諭しました。これは今が良ければ後はどうなってもいいという刹那主義ではありません。現在の一瞬一瞬の刹那に全力を尽くしなさいということです。刹那はインドの時間の最小単位で、極めて短い瞬間をいいます。具体的には75分の1秒に相当するそうです。

 さて、現代の陸上競技では電気計時によって、100分の1秒まで記録されます。これまで人類史上一番速く100メートルを走ったのは、ジャマイカのウサイン・ボルトで9秒58です。世界で初めて9秒台の記録が出たのは、49年前のこと。以来約120人が記録しているものの、日本人はいませんでした。

 しかし、とうとう桐生祥秀(よしひで)選手は、日本人として初めて9秒台の壁を破りました。福井市であった日本学生対校選手権の男子100メートル決勝で、9秒98を記録。これは世界歴代99位の記録だそうです。しかもその日は9月9日でした。長年何人もの日本人選手がはね返されてきた9という数字だけに、因縁めいたものを感じます。

 19年前、伊東浩司選手が10秒00の日本記録を出しました。9秒台はすぐそこ、まさに一刹那と思われましたが、日本人にとっては遥かな道のりでした。走るという行為は動物的本能に満ちて、シンプルに感じられます。ただ、速く走るということにおいては、何ら道具を用いない分、人間の能力の限界に挑む感があります。

 桐生選手は4年前の高校3年で10秒01を記録して注目されました。9秒台を期待されながら、なかなか結果はついてきませんでした。1時間かけて結果を出す競技であれば、多少の出遅れや、途中の不都合も、修正できる可能性はあります。わずか10秒に満たない時間では、ミスが許されないのは勿論のこと、どれだけ競技に集中できるかです。一切の雑念を払って、無の境地になることが求められます。

 そういうスタートラインに立つためには、選手自身の才能や日々の練習は当然です。そして10秒から9秒への刹那を超えるのは、もはや一人の力だけでは成しえません。科学的な研究に基づいた的確な指導も必要です。桐生選手もある時から、どれだけ周りの人に支えられているかに気づき、記録でしか恩返しできないと思っていたといいます。

 お釈迦さまがおっしゃった「今日この時の刹那を大事に」というのは、私という命は一つだが、多くの人に支えられて存在している命であり、様々な関わりの中で生かされている命なのだから疎かにしてはいけない、と受け止めたいものです。私たちの人生も100メートル競走も、今・今、一秒一秒の連続です。この一瞬の刹那切ないほどの心をこめましょう。

 ここでお知らせ致します。来る10月29日(日)午後2時より徳本寺において、第11回テレホン法話ライブを開催致します。ゲストは歌手の高橋佳生さん。入場無料。お茶を飲みながら、ピアノの調べにのせて語る法話や歌をお楽しみください。

 それでは又、10月11日よりお耳にかかりましょう。

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