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【第1063話】 「我なきし」 2017(平成29)年7月1日-10日

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1063.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1063話です。

 それは昨年12月24日のこと。将棋の最年少棋士、藤井聡太四段(14)が、現役最年長棋士の加藤一二三九段(76)と対戦し、デビュー戦を白星で飾りました。14歳5カ月での勝利は最年少記録。両者は62歳差で、最も年齢の離れた対戦ということで話題になりました。

 ふたりには因縁めいたものを感じます。元名人の加藤九段は、60年以上前に14歳7カ月で棋士になりました。その最年少記録は、藤井四段が14歳2カ月でプロ入りするまで、破られなかったのです。そして、この半年余りで、藤井四段は破竹の勢いで、連戦連勝。とうとう、6月21日デビュー戦から負けなしで、公式戦28連勝を達成し、歴代最多記録に並びました。その前日、加藤九段は高野四段との対局で敗れました。後がない戦いをしていたので、規定により現役引退ということになりました。象徴的な新旧の幕開けと幕引きです。

 更に藤井四段は、6月26日増田四段を破り、29連勝という新記録を果たしました。これまでの神谷(かみや)八段の28連勝を30年ぶりに更新したのです。将棋界の歴史を塗り替えた恐るべき中学3年生です。藤井四段は、連勝するたび、インタビューで「幸運だった」と、答えています。新記録達成の時も、「自分でも信じられない。非常に幸運だった」という言葉でした。勿論、幸運だけでこれほどの記録はできないでしょう。デビュー戦で対戦した加藤九段は「私が負けている傾向を調べ、対策をやってこられた。研究しているな、と感じた」と言っています。

 藤井四段は、5歳のころ祖母に将棋を教わり、のめり込んだといいます。幼いころから詰将棋を解くのが好きで、没頭するあまり道路脇のどぶに落ちたというエピソードも伝わっています。加えて、プロになる前からコンピュータ将棋のソフトを活用して、腕を磨いてきています。この詰将棋とコンピュータが、快進撃を引っ張る両輪なのかもしれません。コンピュータは感情がない分、定跡というある種の偏見にとらわれることがありません。それが、藤井四段の若いが故に、まっさらで柔軟性のある頭脳と合体しているとしたら、鬼に金棒でしょうか。

 曹洞宗を開かれた道元禅師は、「自己をならふといふは、自己をわするるなり」とお示しです。自分を極めるといっても、そこにとらわれることなく、むしろ忘れることだというのです。勿論最初から何もしないで、何もない状態の話ではありません。追及して追及して、いざという時は、それにとらわれず、まっさらな心で立ち向かう、そんな姿勢が藤井四段には見えます。その上で「幸運だった」と言うのは、更に自分つまり我()というものがないからでしょう。あっぱれ中学生棋士。"幸運は 我なきし(棋士ところに 訪れる"

 それでは又、7月11日よりお耳にかかりましょう。

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