法話 〜3分間心のティータイム〜イメージ

【第1044話】 「逆境のトンネル」 2016(平成28)年12月21日-31日

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1044_2.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1044話です。

 明かりが灯る・水が出る・離れても話ができるという日常生活が戻るたび、当たり前の有り難さを感じました。東日本大震災でライフラインがズタズタにされた当初の頃です。そして、待ちに待ったライフラインのオオトリともいえる電車の登場です。

 12月10日わが町に、運行再開したJR常磐線の電車が雄姿を現しました。東日本大震災前は町内の海沿いを走っていた常磐線。大津波で線路や駅舎が甚大な被害を受け、内陸移設を余儀なくされました。二つの駅を含め、最大約1キロメートル内陸に移しました。移設区間は14.6キロメートルにおよび、5年9カ月ぶりの再開です。それでも当初の予定より、3カ月以上も早まりました。復興への大きな弾みになると期待されます。

 この工事の象徴的なことがふたつあります。線路の約4割が高架橋になっていることと、ふたつのトンネルがあることです。高架橋は津波に備えてのことと、通常なら土盛りで対応する地上2〜3メートルの場所も、追加の土壌改良工事などで工期が遅れないようにという配慮のためです。また、戸花山という丘陵地に全長604メートルのトンネルを通しました。標高はわずか30メートル余りなので、普通なら山肌を切り崩して線路を敷きますが、一帯には平安時代の大規模な遺跡があって発掘調査が必要です。それを待てば完成が1年も遅れることになります。斜面には住民が植えた桜もあります。地形を変えずに済むように、あえてトンネル掘削に挑んだというのです。

 再開翌日、電車に乗る機会がありました。新しい駅は標高10メートルを超すそうです。そこから、海も望めますが、広がる田んぼと新しい家屋の屋根の輝きは、ここまで津波が来たとは信じられないほどでした。颯爽(さっそう)と走る車窓からの景色に、これからこの町は新しく生まれ変わるぞという予感さえしました。

 町内初の鉄道トンネルに差し掛かると、電車はパーンと警笛を鳴らしました。それは電車運転上のルールでもあるようですが、私には電車がこの町を輝かしい未来に導いてゆくよと宣言している声にも聞こえました。東日本大震災という想定外の出来事に、誰もが明日も見えず、恐怖と不安におののきました。嫌というほどの逆境を味わいました。しかし今、真新しい電車に乗って、やっと大震災という「長いトンネル」を抜け出たような気がしました。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」ではなく、「逆境の長いトンネルを抜けると、幸せ行き故郷(ぐに)であった」。被災地の故郷・くにが幸せに向かって行きますようにと願いながら、どなたさまも来る年が、幸多いことをお念じ申し上げます。

 それでは又、来年1月1日よりお耳にかかりましょう。

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