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【第943話】 「復興交響曲」 2014(平成26)年3月1日-10日

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第943話です。

 20世紀も終わりかけている2000年11月、宮城県築館町の上高森(かみたかもり)遺跡から発掘された日本最古の石器が、実はねつ造されたものだったというニュースがありました。旧石器時代の遺跡発掘の第一人者とされた藤村新一氏が、自ら収集した石器を土中に埋めて、自分が新発見をしたかのように偽っていたのです。考古学界では「神の手」と一目置かれるほどの実績を残してきたのですが、他の発掘でもねつ造が明るみに出ました。旧石器時代の原人像を再検証しなければならないほどの、まさに世紀末的スキャンダルが14年前にあったのです。

 そのスキャンダルの数年前に、「全聾(ろう)の作曲家」とよばれてきた佐村河内守(さむらごうちまもる)氏と作曲家の新垣隆(にいがきたかし)氏は出会っています。遺跡発掘とクラッシック音楽と世界は違うとはいえ、そのスキャンダルを知ってか知らずか、佐村河内氏は18年間にわたり、新垣氏に作ってもらった20曲以上を、自作だとして世に出してきました。1カ月ほど前に新垣氏が告白し、日本中に衝撃が走りました。

 佐村河内氏には、35歳で聴覚を失って以来、絶対音感を頼りに作曲活動をしている「現代のベートーベン」だとか、広島出身で被爆2世という「物語」がついて回っていました。純粋に音楽を聴く人もいたでしょうが、作曲家にまつわる物語を重ねながら、音楽に興味を抱いた人も多かったでしょう。元々原爆とは無関係だった交響曲第1番に「HIROSHIMA」というタイトルをつけ、大ヒットしました。いわく「原爆の闇と自分の苦という闇を重ね合わせて作曲した」。

 更には、東日本大震災も物語の背景にされてしまいました。宮城県石巻市で、津波で母を失った少女と出会い、その少女との交流を通じて作曲したという、「ピアノのためのレクイエム」も自作のものではありませんでした。昨年3月に、少女の通う小学校を訪れ、曲を披露しています。「現地で感じたやり場のない悲しみを曲に表現した」などとされています。しかし、現地では今、やり場のない失望感が漂っています。

 遺跡発掘では、最も古いとか、新発見ということに物語がついて、世間的な関心が高まります。更なる物語を作らねばと追い込まれて、ねつ造に陥ったのかも知れません。クラシック音楽が日常的に茶の間の話題になることはなくても、人の悲しみや苦しみは物語として十分に噂にも話題にもなります。物語を肥大化するためには嘘をつくしかなかったのでしょうか。

 しかし、東日本大震災は決して物語ではありません。「事実は小説よりも奇なり」ではありませんが、誰もが想定できなかったような現実が目の前に広がっています。3年という時間が流れた事実と復興が進まない事実を前に、「物語のような劇的な復興」を望みたくても叶いません。嘘のない本物の復興を目指し、自らの足で歩んで、一歩一歩という「)面」を描き、復興交響曲を作り上げましょう。

 それでは又、3月11日よりお耳にかかりましょう。

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