法話 〜3分間心のティータイム〜イメージ

【第838話】 「心の大黒柱」 2011(平成23)年4月1日-10日

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20110331_1.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第838話です。

 その日、お檀家のI さん宅では午後6時からお通夜が行われる予定でした。享年61歳の大黒柱である檀那さんを亡くされたのです。その3時間14分前、即ち3月11日午後2時46分「東日本大震災」が発生しました。震度7の揺れは、誰もが立っていられないほどでした。海岸から数百メートルのI さんの住む集落の人々は、津波の被害に備えて、取るものも取り敢えず、避難しました。

 まさかと思いましたが、その集落は高さ20メートルもあろうかという津波に、すべて呑み込まれてしまいました。一般の住宅は勿論、松林、お寺の本堂、墓地、神社の建物など、ありとあらゆるものが破壊されるという信じられない大惨事となりました。砂浜が広がり、海がすぐそこに見えます。誰もがただただ呆然とするばかりです。

 当然、その日の通夜も翌日の葬儀も行える状態ではありません。電話も通じなければ、人々の安否も確認できないのです。数日後、喪主であるI さんの息子さんが訪れ、無事であることが分かりました。家族は何とか難を逃れましたが、肝心のご遺体を運び出すことができませんでした。写真を持ち出すのが精一杯で、家もすっかり無くなってしまい、お位牌も流されてしまったというのです。ご遺体も流されてしまったかもしれないとのことでした。

 その集落では、生きていた人でさえ何十名という行方不明者がおります。果たしてご遺体を発見することができるだろうかと、遺族の方は落胆するばかりでした。大黒柱を失ったそれだけでも憔悴の極みの中、震災で家も無くし、ご遺体も不明とは、悲しみが津波のように押し寄せてきているかのようでした。

 しかし、懸命の捜索を続けた結果、震災発生からちょうど2週間目の3月24日に、ご遺体が発見されたとの知らせがありました。発見場所は何と自宅だったのです。跡形もなくなった家屋の瓦礫の中から、棺ごとそっくりそのままの状態で見つかったというのです。ご遺族やまわりの方は、死んだ人がまるで生き返って来たかのような喜びでした。

 震災の犠牲者で火葬場が順番待ちの中、何とかその日の夜7時に火葬を行うことができました。今度こそ最後のお別れです。遺族親族に加えて、近隣の人も大勢参列しました。ほとんどの方が、家を失って避難所暮らし、中には身内に犠牲者や不明者のいる方もいらっしゃいました。みなさん我が身の悲しみをこらえながら、I さんの亡骸に手を合わせていました。どなたかが言いました。「死んでも家を守ってくれたんだな」。

 この大災害の中でも、家に踏み留まった棺は、地震で家屋は大黒柱が折れて、津波で流されようとも、心は挫けることなく、揺るぎない信念をもって生きろと励ましているかのようでした。これからも亡きI さんは遺族の心の大黒柱として、みなさんを見守り続けることでしょう。

 それでは又、4月11日よりお耳にかかりましょう。

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