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【第822話】 「希望というお守り」 2010(平成22)年10月21日-31日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第822話です。20101021.jpg

 人は「高さ」に対しては体験しやすいし、ある程度想像も可能ですが、「深さ」に対してはどうでしょう。東京タワーは333メートルの高さがありますが、真下で見上げたことのある人や、写真などでその全体像を容易に想像できます。しかし、その倍もある約700メートルの「深さ」は、想像を絶するものです。8月5日にチリのサンホセ鉱山で起きた落盤事故で、33人の労働者が閉じ込められていたのは、そんなところでした。

 その地底より、事故発生から70日目の10月13日、33人全員が無事救出され、「奇跡の生還」を果たしました。「フェニックス(不死鳥)」と呼ばれる救出用のカプセルで、1人ずつ救い出す過去に例のない作戦に世界中が注目しましたが、当初の予定より2カ月も早く救出が完了し、誰もが安堵しました。

 奇跡の始まりは、事故発生後17日間も経ってから33人全員の生存が確認されたことです。この間生存が絶望視されたこともあったようですが、地底の33人も地上の家族等多くの関係者がとにかく希望を捨てずに、生きよう、生きていると思い続けたことが、更なる大きな奇跡に結びついたのでしょう。事実現場近くにはチリの国語スペイン語で希望を意味するエスぺランサという名のキャンプができ、夜通し肩を寄せ合って、救出を祈った家族もいました。また33人の一人アリエル・ティコナさんの奥さんは9月14日に女の子を出産しました。そして、赤ちゃんにエスぺランサ(希望)という名前を付けたと言います。

 それにしても、生存していることが地上に伝わるまでの17日間は、絶望に苛(さいな)まれることはなかったのでしょうか。一人でなかったことが大きいと言います。しかし、大勢いればそれはそれでお互いの我がままがぶつかり合ったりして、不協和音が生じないとも限りません。報道によれば、自ら志願して最後に救出されたというルイス・ウルスアさんが、最初の17日間からその後も、極限の指導力を発揮したとのこと。閉じ込められたみんなの心がこれ以上「落盤」しないように、規律を守らせ、大黒柱に成りきっていたようです。

 ある言葉を思いました。「死ぬほどやれ 死なないから」。「死ぬほど」とは、極限の力を振り絞ることで、そうすれば活路が見出せるということでしょう。死ぬかもしれないと絶望すれば、ほんとうに死は襲ってきます。しかし、死ぬかもしれないが、まだ生きている。だから生きられると希望を捨てなければ、ほんとうに生きられることがあるということです。それを人は奇跡と呼ぶのでしょうか。

 スペイン語で「奇跡」を「ミラグロ」といい、元々は奇跡が叶うお守りを指しました。人々は何かを叶えたいとき、様々な形に祈りを託して神に捧げたと言います。たとえわずかでも「希望というお守り」を持ち続ければ、ミラグロ――ミラクルが起きることを教えてくれた今回の出来事でした。まさに――チリ(塵)も積もれば山となる――です。

 それでは又、11月1日よりお耳にかかりましょう。

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