法話 〜3分間心のティータイム〜イメージ

【第820話】 「心に残る男のトラクター彼岸号」 2010(平成22)年10月1日-10日

2010100102.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第820話です。

 雨の夜、美女が車から降りようとすると、そこは水たまり。すかさず運転していた男は、自分のコートを水たまりに敷いて、美女の靴が濡れないようにして、車から降ろします。そこに「心に残る男の車云々」というナレーションンが流れます。その昔評判になったとある車のテレビコンマーシャルです。気障な男という見方もありますが、取り敢えずは自分を無にして人に尽くす心に残る男の仕草でした。

 さて、先般のお彼岸の中日は、前晩から降り続いた強い雨が、とうとう終日止むことはありませんでした。そんな中、徳本寺においては、お彼岸の先祖供養・施餓鬼会法要が営まれました。悪天候にも関わらず、例年以上の参拝の方が訪れて下さり、有り難いことでした。亘理郡内の和尚様方も16名のご参加をいただき荘厳なる法要が営まれました。

 夕方、帰りがけのときです。ある和尚さんの車が、臨時駐車場になっていた空き地のぬかるみにはまって、出られなくなったといいます。晴れていればそんなことはなかったのでしょうが、あいにくの天候で大分地面が軟らかくなっていたようです。たまたまそばにいた檀家のHさんが、知り合いの人にも声をかけ、救出を試みていました。私も手を貸してみましたが、万事休すです。

 Hさんはトラクターを持っている近所の家に行ってくれましたが、折悪く留守で、トラクターを借りることができませんでした。するとHさんは30分以上かかるけど、自分の家に戻って持って来ましょうと雨の中出かけました。ややしばらくしてトラクターが到着。牽引ロープを繋ぎ、トラクターで車を引っ張ると、車はたちまちぬかるみから脱出することができました。何馬力のトラクターかはわかりませんが、大の男何十人分もの力を見る思いでした。

 車の持ち主の和尚さんが、何度も頭を下げ「何とお礼を申し上げていいのかわかりません。ありがとうございます」と感謝を述べました。Hさんは何事もなかったかのように、手をあげてにっこり笑って、トラクターと共に帰って行きました。その姿は、まるで西部劇のヒーローが馬にまたがって去って行くかのようでした。

 たまたま彼岸中の出来事ではありましたが、いつも他の人に手を差し伸べ、彼岸に渡っていただきたいと念じているからこそ出来たHさんの行いだったのではないでしょうか。「己(おの)れ未(いま)だ度(わた)らざる前(さき)に一切衆生(しゅじょう)を度さんと発願し営むなり」と、修証義というお経にもあります。

 冒頭のテレビコマーシャルとやや似た天候などの状況ではありましたが、コマーシャルの絵空事のようなしゃれたところも気障なところもありません。それでも、トラクターの現実的な力強さと、Hさんの自分のことはさて置き、困っている人を助けたいというほんとうの意味での強い男らしさが、まさに「心に残る男のトラクター彼岸号」でした。

 それでは又、10月11日よりお耳にかかりましょう。

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