法話 〜3分間心のティータイム〜イメージ

【第781話】 「名前のある鯉」       2009(平成21)年9月1日-10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第781話です。

 徳本寺には古くから小さな池がありました。9年前に現在の池に改修しました。少し大きくなり、庭とも調和した立派な池になりました。しかし、肝心の魚が棲みつきません。何度か鯉や鮒などを放してもらったのですが、すぐに死んだり、いつの間にか鳥にでも狙われたのか、姿が見えなくなってしまいます。たった一匹だけ、古い池の時から生きているヘラブナが、化石のように生き残っています。

 この度、思い切って錦鯉を11匹ほど放してもらいました。ヘラブナと比べればずっと華やかで、イケメンの鯉が泳いでくれて、やっと池らしくなりました。毎朝6時の梵鐘を撞いた後に、餌をやるのですが、梵鐘の音が聞こえるのかどうか、その時刻には揃って池の渕に集まってきます。競って餌を口に入れる様は、微笑ましいものです。思わずこの魚たちに名前を付けたくなりました。

 ヘラブナは古い池から何年もいる主のようなものですから、ずばり「ヌシ」という名前にしました。雄か雌かはわかりませんが、黄金色の鯉は「ヒメ」、やや銀色のは「トノ」。紅白に黒の三色斑紋がある4匹の鯉はそれぞれ、「ハル」「ナツ」「アキ」「フユ」と名付けました。1年中元気に泳いで、みんなを楽しませて欲しいというつもりで命名しました。

 紅白の斑紋の5匹は「ソラ」「クラ」「ヒラ」「サラ」「テラ」という名にしました。「ソラ」は大空でもあり、仏教の根本思想「空(くう)」のことでもあり、こだわらないこと。「クラ」はお地蔵さんの「蔵」で、大地を表し、大きな思いやり。「ヒラ」は平らな心で穏やかなこと。「サラ」は「沙羅双樹」で無常の象徴。「テラ」はまさにお寺のことで、この鯉たちの名前のような心を、人々に感じていただけるような処でありたいという願いを込めました。

 お寺にはよく、「放生(ほうじょう)の池」というのがあります。捕らえたものを、放し生かしてやる池のことです。むやみな殺生を戒め、慈悲の心で生きものの命を尊ぶという仏教の考えが基になっています。徳本寺の池は、特に「放生の池」を意識したわけではありませんが、鯉にも名前をつけることで、より一層身近な生きものという思いにはなります。もっとも、池の鯉たちはそんなことを知ってか知らずか、餌をやる時以外は、「来い!」と言っても来ませんし、こちらの思い通りにいかなくて、ためいけ(溜め息)が出るばかりです。

それでは又、9月11日よりお耳にかかりましょう。

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